2015/6/16~6/17 ソフトウェアシンポジウム2015(SS2015)和歌山で、Working Group6(以降、WGとします)レビューを運営してきました。
http://sea.jp/ss2015/working_groups.html#wg6
このWGのリーダはフェリカネットワークスの栗田さんと私の2名でしたが、栗田さんはSS2015事務局対応もあるため進行役は私となりました。
参加者は、国内メーカのQA・SEPG、大学研究者、企業内PMOや技術系サポート役などいろいろな背景を持つ12名。
うち4名が女性(さらにそのうちの1名は大学生さん)で、なんと、1日目の途中まで松原友夫さん(書籍「ピープルウェア」や「ソフトウェア開発201の鉄則」の訳者さん)にご同席いただきました!
突然のことでびっくりしましたが、業界で最も古くから開催されているSSならではのうれしい出来事でした。
今回のテーマは「レビュー観点」。
これまでさまざまな組織に対してレビュー教育などを行ってきた際に、受講者のみなさんから「レビューの問題点」を収集してきました。その分析結果から、「レビューの結果や成果に直結する要因」と、「その背後で結果や成果を下支えしている要因」にわけられることがわかり、前者に着目したテーマ設定をしたのです。
まずは、メンバーのみなさんに事前に提出いただいたポジションペーパ(PP:簡単な自己紹介とテーマに対する自分の立ち位置を表明するもの)に沿って簡単な自己紹介とレビューに関する問題点を共有しました。
私の進行がよろしくないこともあり(すいませんw)、これで1日目が終了してしまいましたが、参加いただいたメンバーさんの状況やレビューに対する想いを共有することができました。(これだけでも十分価値のある内容でした)
PP紹介の中で、業界の重鎮Aさん(イニシャルではありません。あしからずw)からは『レビューは基本的に30年間変わってないよね』とコメントをいただきました。
なるほど言われてみると私が業界に入ってから(30年弱)レビューについてはさほど変化していない気がします。
(単に私の周囲が変わっていないのかもしれませんがw)
また、Bさんからは「現在のレビューは会議術についての議論ばかりなので、工学的な議論を期待したい」と。
このコメントは、先ほど記載した「レビューの結果や成果に直結する要因」と「その背後で下支えしている要因」にも符合するように受け取りました。
参加メンバーのみなさんが感じている問題点は、表現こそ異なるものの、どこの組織も同じ悩みや問題を抱えているなぁ、と実感できるものばかりでした。
(松原友夫さんからは「楽譜のレビュー」について貴重な体験談をいただきました)
2日目は、私が持ち込んだレビュー対象成果物(某w要求仕様書)をベースに、メンバーが自由にレビュー観点を導出し、その一部をモデリングしてみました。
例えば「使いやすさ」に関連する要素として、操作性、簡単操作、手数、持ち運び、筐体の大きさ、などの観点が出ましたが、レビュー対象のどこの部分に対して、誰が、どのような性質をもって”使いやすい”とするのか、を整理し、関係者で共有しないと、レビューの場で具体的に”問題がある/なし”の判断ができないよね、ということになりました。
このようにみんなで要求仕様書のレビュー観点導出とモデリングをやってみましたが、関係者がみな同じ認識や判断ができるレベルまで観点を落とし込み、理解できる表現にするのは簡単ではありませんね。
例えば、「使いやすい」というのは非常に大雑把でわかりにくい。
一方で「72歳の健常者のおじいさんでも画面上のボタン表示が判読でき、迷いなくタッチできる」となると「使いやすい」がより詳細になっています。
この詳細化レベルについては、レビューアのスキルやドメイン知識により変える必要がありそうです。
さらに、この詳細化レベルをレビュー観点群の縦方向とすると、漏れなくダブりなく観点を導出する横方向にも難しさがあります。例えば「使いやすさ」に含まれる要素を漏れなくダブりなく出し切るのも簡単ではないです。
他にも観点導出とモデリングの過程で議論した内容をいくつか書いておきます。
・「レビュー対象成果物に書かれていること(例えば、目次に”非機能要求”と書かれていた)をレビュー観点として切り出す必要はあるのか、ないのか」についても議論になりました。書かれていないことだからこそレビューする必要があるのでは?という意見です。
これに対しては「私はレビュー対象成果物を直接読み込まずに、そういう製品なら一般的に(あるいは私なら)こういう観点で確認が必要だよね、と導出するので、観点に該当する言葉が書かれていたとしても(それが正しいか、適切かを)確認すべきだと思います。」というコメントがありました。
・「レビュー観点として明確化するのではなく、可能な限り開発関連のガイドに反映するアプローチを取っている」という方もいらっしゃいました。
レビュー観点を突き詰めると「開発で考慮すべき事項」を整理していることと同じ意味を持つので、そうしていると。
つまり、レビュー観点は、レビュー直前に整理するのではなく、要求定義や設計作業の前に行うこと、あるいはさらに発展してあらかじめ開発関連のガイドなどに反映して実作業に直接活かすことが必要になる、というこです。
・・・確かにその通りなのですが、実務ではまだまだどれも実践できてない場合も多い、ということは否定できません。
現在の状況から、どのレベルでレビュー観点にアプローチするのがよいのかを決める必要性を実感しました。
残念ながら時間の関係で、レビュー観点の導出とモデリングは途中で終了してしまいましたが、さまざまな背景を持つみなさんとの議論を通じていろいろなことに気づくことができたWGだったなぁと思います。
この続きもメーリングリストを通じて同じメンバーで継続していくことを確認してWG6は終了したのでした。
女性の割合が多いWGでしたので、ギスギスした感じがなく、とても穏やかに運営することができました。
バランスって大事ですよね。感謝感謝です。
WG6にご参加いただいたメンバーのみなさん、ありがとうございました!
SSには、2009年に札幌で開催されたのをきっかけにたびたび参加し、末端でプログラム委員もさせていただいています。
他のイベントとは違い、重鎮のみなさんから大学生などの若いみなさんまで分け隔てなく意見交換や議論ができるのはとてもすてきなことだと思っています。いや、そのような場はそうはありません。
北海道ゆえ、薄くではありますが、今後も関わっていければうれしいです。
和歌山は初めてでしたが、狭い三角の空き地まで田んぼになっていたり、ネコの駅長さんがウリになっているなど、肩の凝らないのんびりした居心地のよい街でした。よほどのことがない限りもう行くことはないかなぁ、と思いつつ、関西空港から帰路についたのでした。和歌山のみなさん、お世話になりました。
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